呟きにおさまらないこと、もの

観劇の記録など。朝夏まなとさんのファンです。

Wキャストの妙/マイフェアレディ

 

 

 

 

マイフェアレディ@久留米シティプラザ

主演 朝夏まなと寺脇康文(てらまぁコンビ)

   神田沙也加/別所哲也(べっかんコンビ)

 

 

 

 

 

朝夏まなとさんが宝塚退団後初めて挑むミュージカル。ファンとしては観ないわけにはいきません。私は神田沙也加ちゃんも大好き。可愛いは正義。そんな方が朝夏さんと同じ役を演じるなんて。これまた観ないわけにはいきません。

ということでWキャストを昼夜公演でそれぞれ観劇しました。

同じ物語なはずなのに、演じる人が違うだけで、こうも受け取る感情が違うものなのかととっても感動しました。

 

 

日本初演から55年という王道ミュージカル。女性の自立や男女の擦れ違い、格差社会の問題など、色んな普遍的なテーマを含んでいるから長く愛されているのかな。色あせないきらびやかな音楽も大きな魅力のひとつ。舞台の上でタクトを振っていた指揮者の方の背中がとても格好良くて、まさに職人!という感じだった。あれも素敵な演出のひとつですね。

 

 

で、Wキャストの妙、という話です。

どちらのコンビも素晴らしかったのは大前提として。

てらまぁコンビは、イライザの成長を楽しむ物語、べっかんコンビはヒギンズの変化を楽しむ物語という印象を受けました。

朝夏イライザは、はじめは本当に何も知らない純朴な田舎の花売り娘。ヒギンズ邸で目にするもの触れるもの全てに素直に驚き、反応を見せているのがまず面白かった。レッスンを受けている時もそう。ランプの火に目を輝かせて一生懸命。とにかく目の前にあることに素直に挑戦していく感じ。ちょっとぽやんとしてるところもあったかな。朝夏イライザの発する声の響きが少しずつ変わっていったのも面白かったですね。はじめはただただ幼い。でも、舞踏会に出席する頃にはすっかり大人の女性の声の響きになっていた。歌声でもそれを表していたように思います。だから、朝夏イライザは一人の女性としての成長が色鮮やかだった。一幕ラストのドレス姿は息を飲みました。なるほど、半年間の成果がこれかと思った。

 

 

対して神田イライザは、はじめから終わりまで彼女から受ける印象はあまり変わらない。本当に言葉遣いが変わったな、ということくらい。歌声も、ずっと明瞭できれいだけど、朝夏イライザのような大きな変化はないです。だからこそ、二幕の「どう振る舞うかじゃない、どう扱われるかだ」という台詞がストンと来る。そう、この女性はコペントガーデンにいる頃から何も違わないのだと、ただ、周りの見る目が変わってしまったのだと。階級とか身分とか、自分の力ではどうしようもない超えられない壁があることの哀しさがよく伝わってきた。可憐な見た目とは裏腹に、もともと芯が強くて、逞しくて、気丈なレディ。これは、レッスンを受けている時もそう演じてましたよね。神田イライザはとにかく強かった。

 

 

ヒギンズ役については、別所ヒギンズの方が『変化』を見せていたように思います。神田イライザが「変わらないこと」を貫いていたからこそ、ヒギンズの変わりようがより大きく見えたのかもしれない。一幕の別所ヒギンズはとにかく紳士でした。もちろん苛立ちは見せるけれど、比較的理性的で穏やか。イライザを育てたい、という想いも見える。し、舞踏会に行く前に、ピッカリング大佐へイライザへの想いを語るところで、しっかりと恋心が見える。だから、二幕、イライザがいないことが分かってからの取り乱しようが面白かった。大好きなのに素直になれない、でも素直になりたい、勇気を振り絞っての「好きだよ」。これに惚れない女性はいないのでは!?と思ったけど、イライザはいったん別れを告げますよね。これが切なくて可哀想できゅんとする。で、ラスト。「スリッパはどこだい?」と安心したように掠れた声で訊ねる。この台詞も別所ヒギンズならでは。それまで守る対象だったイライザに、甘え頼ることで対等に立つ。そしてどこにあるのかと訊ねることでその先をイライザに委ねている。

変わらないイライザに出逢って、変わっていくヒギンズ。

 

 

寺脇ヒギンズは、二幕通してあまり変わらなかったような気がします。学者としてのこだわりが強い。ちょっと偏屈。で、自分の心の在り様に疎い。そういうことも、多分普段はどうでも良いんだと思う。恋心を分かってない感じ。舞踏会に行く前に、イライザを認める発言をしていますが、あそこではまだあの言葉以上の気持ちは自覚がない。イライザがいなくなってもまだ、どうして自分がこんなにイライラしているのか分かってない。イライザは、もう自分のそばにあるのが当たり前の存在になってしまっているのに、そう自分が変化しているいることが分かってない。女性から言わせると、ヒギンズの方が「バカだ」と言いたくなるような。

で、お母さんの家で再会したイライザに「大切に想うようになっていた」と言われて初めて少し気付いたのかな、と私は捉えました。寺脇ヒギンズの「好きだよ」は、自覚より先に口を突いて出て来た言葉だったと思った。そうしてイライザに出て行かれて、また訳も分からずイライラする。そうして散々悪態をつきながら家に帰る。ここは、ヒギンズが歌えば歌うほど「ほんとに分かってないなあ」と微笑ましい。で、寺脇ヒギンズは、きっとこのシーンで初めて何となく自分の気持ちを認めることが出来たんじゃないかな。

最後は「スリッパを探していたところだ」という台詞。まだ帽子も取ってないのにね。スリッパどころじゃないはずなのにね。寺脇ヒギンズは自分が、自分で、スリッパを探している、というニュアンスの台詞を口にする。イライザに甘えてるんじゃなくて、自ら行動することで、自立することでイライザと対等に立つ。そして、イライザが出て行った晩のあの瞬間に時を戻して、そこから仕切り直しをしようとしている。

 

 

てらまぁコンビの恋は、これから始まる。

べっかんコンビの恋は、一幕からとっくに始まっている。

 

 

思えば、発音の練習をしているところも。てらまぁコンビはピッカリング大佐も交えて三人チームで目標を達成しようとしていた気がします。だから、二幕のピッカリング大佐の「友達」というフレーズがぎゅっと沁みた。べっかんコンビは、もうここから二人の世界が始まっていた。二人を見守るピッカリング大佐、というような作りだった印象。

イライザが出ていくシーン、朝夏イライザは指輪をきっぱり置いていきましたけど、神田イライザは持って出て行った?この指輪、別所ヒギンズは指輪に特別な想いを込めて渡しているでしょう。寺脇ヒギンズは装飾品のひとつとして買ってあげているけれど。

 

なので自然と、フレディの存在感も違ってきましたね。べっかんコンビのフレディは完全なる当て馬。二人の間に入り込む余地はなさそう。でも、てらまぁコンビのフレディは、幕が下りてからもイライザにアタックをし続けるだろうし、二人の間を引っ掻き回してくれそう。寺脇ヒギンズより、朝夏イライザの心に寄り添えている。

ところで、平方元基さん、お芝居のさじ加減も聴かせる歌も、素晴らしかったです。そこはかとないストーカー感がとても良かった。

 

 

いやー、ほんとうに面白かったです。Wキャスト、どちらも観て良かった~。

これ、すごいですよね。別所朝夏ペアだったら、そもそもイライザは出ていかず、すんなりうまくいきそうだし、寺脇神田ペアだったら、そもそも舞踏会まで辿り着かないかもしれない。

てらまぁコンビだからこそ、べっかんコンビだからこそ、こういう見え方になったんですよね。ミュージカルって本当に素晴らしい。

 

 

 

 

今回、生オケだったのも嬉しかった。物語をスムーズに進めていく中心にいるのは、役者さんじゃなくて指揮者さんなんだな、って知ることが出来た。ヒギンズママが「ブラボー、イライザ」と呟いた後、本当に気持ちいいタイミングでタクトを振られたのですよ。素晴らしいメロディが素晴らしいタイミングで心に入って来て、ぐっときた。

Wキャストそれぞれのリズムに合わせて音楽で物語を進行する指揮者さん、すごいわ。神。ある意味本当に神、なんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここから下は、朝夏まなとさんのいちファンとして彼女の良かったところを列挙していきます。

ただただ好きなところをあげていきます。可愛かった、ってめっちゃ言います。ご了承ください。

 

 

・まず、冒頭の花売り娘。お顔が汚れていましたね。可愛かった~。で、ここで顔が汚れていることで、二幕ラストの「顔も手も洗ってきた」という台詞が響くんですよね。そう、幕開けは泥だらけの顔だったのに、最後はとてもきれいな顔で愛する人を許す顔をしている。

 

 

・はじめてヒギンズ邸を訪ねるシーンでは顔の汚れを落としていて、つるんと可愛い顔をしていて、あまりに穢れがなくて、胸が熱くなって泣きました。ファンなので。で、ですよ、ソファーの柔らかさに反応したり、きれいなハンカチを嬉しそうに触って、ハンカチが勿体なかったのか、結局袖で涙を拭いちゃったり、ほんとうに可愛かったですね。ハンカチ持って帰ろうとしていた?気がする。べえ~って舌を出すのも、ちょろっと舌先だけ出すんじゃなくて全力であっかんべーをしてるのが可愛い。可愛い。可愛い。

 

 

・そして、てらまぁコンビの一番の見どころ。発音の練習のシーン。とにかく表情がくるくると変わる。素直。チョコレートなら私がいくらでも買ってあげるのに……。髪の毛をまとめていたので、なんだか頭がまん丸くて、まるでお月見団子みたいだな、可愛いな、って思いました。一緒に観劇していた友人は「朝夏さんの『可愛い』はふにふにっとしたぬいぐるみみたいな可愛さで、神田さんの『可愛い』はリカちゃん人形みたいな可愛さだったね」とまとめていた。納得。あんなに大きくて手足が長くてスタイルの良い女性なのに、ゆるキャラみたいな可愛らしさを出せるのはすごいですね。なんなんだろう。シーツからちょこんと顔を出して歌うところなんてさ……最高。ピッカリング大佐とヒギンズ教授とのチーム感も強くて良かったです。ここが三人一体となって楽しそうにしているから、後半のピッカリング大佐の「友達」とか「寂しいのは私だ」という台詞が生きる。

 

そうそう、ひなたにひなげしを言えた後、男二人がぎゃあぎゃあ騒いでいるのを全く気にせず、自分の世界に浸って喜びをかみしめている顔も可愛かったです。それまでのシーンでは出てこなかった真新しい表情でしたよね。少しだけ、次の世界の扉を開けたんだな、と感じさせられた。

 

 

アスコット競馬場の登場シーンは、思わず拍手したくなりました。しなかったけど。マイフェアレディの象徴ともいえる、あの衣装を着こなすのはさすがです。オーラがすごい。トップスターとして経験を積んで身につけたものが自然と溢れているのでしょう。さっきの花売り娘のシーンまではそれをどうやって隠していたのか。場違いなことを言っているのに気付かずぺらぺらしゃべるところ、ちょっとドスが効いてますね。可愛い。馬に向かって暴言吐くところ。良いですね。その後の「しまった!」って顔までひっくるめて何回でも見直したいポイント。贔屓目ですが、朝夏さんはコメディがとても上手です。思いっきりやってるのに下品にならない。ご本人の気質の良さでしょうか。

 

 

・一幕ラストは圧巻でした。あの花売り娘が、こんなにも美しい淑女に成長したのかと。発声も違っていました。直前の競馬場ともまた違う雰囲気を纏っていた。完全に仕上がったのだとはっきりわかった。赤いコートを着させてもらうところも、着させてもらうことにすっかり慣れたことが分かって良かった。そして、腕を組んで奥に向かって歩いていくところも、かっこよかった。お姫様じゃなくてもはや女王様でした。

 

 

・二幕、舞踏会のシーン。ひとりだけ背が高いので、それは目立ちます。「チャーミング」って声をかけてもらうことに説得力がある。ダンスもきれい。これはピッカリング大佐に教えてもらったんでしょうか?

 

 

・帰宅して、少しずつ顔を曇らせていくところ。ヒギンズに認めてもらえないいらだちと、実際に舞踏会に参加したことで宙ぶらりんになってしまった自分の状況を誰より早く察知した賢さが出ていました。そして、ヒギンズにアクセサリーを渡すところ、ちゃんとティアラも外してて、嬉しかった。そうよ、それも借り物だったのよ。自分の力で得たものではないのよね。それを忘れない賢さもイライザにはありました。好き……。

 

 

・花売り娘の時は下町のみんなとめっちゃ楽しそうにしてたから、火にあたるシーンは悲しかった。泣いた。あまりに美しくなりすぎちゃったんだよね。「知り合いと似てたもんで」って言われて、「私だよ!!」って言いだせないイライザのせつなさ。お父さんとの決別のシーンもうまかった~。お父さんとの決別、すなわち過去との決別。そこに寄り添ってくれるのがヒギンズじゃなくてフレディというせつなさもある。

 

 

・ヒギンズママの家でヒギンズとやり合うシーン。ボタンのかけ違いが見ていてつらい。イライザはなんでこんなアホな男を好きになってしまったのか。でも、だからこそ、ママの「ブラボー、イライザ!」が響いたなあ。お母さんは、我が子がアホなのをよく知っている。イライザがアホに付き合って頑張ってきたことも分かっている。そうして、美しく変化して結果を出したイライザ、そして自分の足で一歩を踏み出したイライザへの賞賛の一声。これは、ヒギンズがアホであればあるほど、そしてイライザの成長が大きければ大きいほど響く台詞でした。ほんとに、朝夏イライザ、ブラボー、でしたよ。

 

 

・ラストシーン、どうしてもヒギンズを突き放せず帰ってきちゃったイライザ。泣き笑い、みたいな表情がいとおしかったですね~。母性を感じた。不器用な男を包み込むような大きな愛。朝夏イライザは、自分の足でしっかり立って、自分の手で幸せを掴む。好きになってしまった男のことも、イライザ自身が幸せにする。そんな女性にまで成長したのだと改めて感じさせられました。

 

 

 

 

結論:朝夏まなとさん最高

 

 

 

 

 

 

 

次はオンユアフィートかあ~。朝夏さんご本人にはイライザよりも合っていそうですよね。相手役さんがWキャスト。二人とも若いイケメン……楽しみ……。